アカタナゴ|仔を産む魚

Ditrema jordani Franz, 1910

概要

アカタナゴ:Ditrema jordani Franz, 1910

撮影地:静岡県伊東市 水深5m

分類・分布

脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > スズキ目 > ウミタナゴ科 > ウミタナゴ属 > アカタナゴ

千葉県鴨川から徳島県の太平洋沿岸。沿岸の藻場や岩礁帯に棲息します。

特徴・雑学

1990年代までの分類ではウミタナゴは1種であり、その他は体色変化やシノニムであるとされていました。 その後、2007年に、アカタナゴ、アオタナゴ、ウミタナゴ(基亜種・日本海側に分布)とその亜種のマタナゴ(太平洋側に分布)の3種と1亜種に分かれました(*1)。 アカタナゴは体側に赤味を帯びることから名があり、近縁のウミタナゴ類と比べ区別しやすい特徴を持ちます。
口は小さく、藻場や岩礁帯で小型甲殻類や多毛類、付着性の小動物をついばむように摂餌します。
ちいさな群れで行動することが多く、沿岸の波静かな場所で見られます。

【胎生】
ウミタナゴ科は海産硬骨魚としては珍しい「胎生」で知られます。
交尾は夏から秋に行われますが、すぐには受精せず、精子は雌の輸卵管の中でしばらく待機します。 雌の卵が成熟すると待機していた精子と受精し、約ひと月ほどで卵は孵化します。 胎魚は引き続き雌の体内で卵黄を栄養として成長し、交尾から約半年の期間を経て、初夏に親魚と同じ形になった仔魚を10~30尾の仔魚を出産します(*2)。

【食の風習】 ウミタナゴ属の出生時は尾から出てくる「尾位出生」が一般的とされ、島根県では「逆子になる」として妊婦は食べない方が良い。という風習があります(*2)。 一方、次々と子供が生まれてくる様子からか、寛文7年(1667年)に書かれた『食物和歌本草増補』には「たなごこそ懐妊の薬朝夕に食して其子難産もなし」 (タナゴこそ妊娠の薬である、朝夕に食べれば子供は難産にならない)とあります(*3)。
東北地方では「安産に良い」として妊婦に食べさせた方が良い魚として珍重されます。
こうした民俗的な言い伝えは、身近な沿岸魚が人々の暮らしと結びついてきたことを示す一例です。

食・利用

体は小ぶりながら塩焼き、唐揚げ、南蛮漬け、干物などで親しまれます。
身は柔らかく淡白な白身で、鮮度の良い個体は刺身や酢じめにする地域もあります。

毒・危険性

有毒成分の報告はありません。

参考資料

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