アオリイカの交接

左腕で届ける遺伝子

Sepioteuthis lessoniana

Blogger 撮影コラム:「アオリイカの産卵」

概要

和名:アオリイカ(交接)

英名:Bigfin reef squid

学名:Sepioteuthis lessoniana Lesson, 1830

撮影地:静岡県 伊豆半島沿岸

提供映像(サンプル映像は1280x720.30pです)

分類・分布

分類:軟体動物門 > 頭足綱 > ツツイカ目 > ヤリイカ科 > アオリイカ属 > アオリイカ

分布(タイプ別の整理)

特徴・雑学

【混在する3タイプのアオリイカ】
アオリイカには、シロイカ型・アカイカ型・クワイカ型の3型があるとされています。
シロイカ型とアカイカ型の容姿は、ほぼ同様なものの、シロイカ型に比べてアカイカ型の方が赤色色素が多く、茶色に近い赤みを帯びた体をしており、頭部下面の漏斗にも赤色色素が見られます。
また、産卵する卵嚢の中の卵は、シロイカ型で通常5個なのに対し、アカイカ型は6個から13個の卵が入るとされます。
クワイカ型は、シロイカ型・アカイカ型と比べて小型で、暗色の体色をしており、卵嚢の中の卵の数は1個から3個とされます。

 

【貯蔵される精子】
イカ類の「交接」は、哺乳類のように生殖器を挿入する「交尾」とは異なります。
アオリイカの場合、オスの左第4腕が交接腕として機能し、この腕を用いて精子のカプセルである精莢(せいきょう、spermatangium)をメスに受け渡します。 雌の体内に入った精莢は反応で敗れ、中に収納されていた精子が放出されます。 放出された精子はメスの体内に保持され、その後、産卵の際に卵が体外へ放出されるタイミングで、精子に触れることで受精します。

アオリイカのメスは、口の腹側にある精子受容嚢(SR:seminal receptacle)に、複数のオスの精子を同時に貯蔵することができます。 実際に遺伝解析によって、1個体のメスが複数のオスと交接し、異なる遺伝子を同時に持つことが確認されています。

【交接の戦略】
アオリイカのオスは、体の大きさやその場の競争状況に応じて、交接の姿勢や精莢のタイプを使い分ける柔軟な戦略があります。
交接姿勢は主に2つのタイプが知られており、大型のオス(コンソート雄:consort male)は、メスと並ぶように交接する「雄平行型交接(male-parallel mating)」を行い、 比較的大きな精莢を用いて、確実に精子を渡そうとします。 一方、小型のオス(スニーカー雄:sneaker male)は、他のオスの隙を突くように接近し、小さな精莢をメスの口周辺(buccal area)に付ける「雄反転型交接(male-upturned mating)」を行うことで、 激しい競争の中でも自分の精子を雌へ渡そうとします。

ただし、精莢のタイプは「大型のオスは大型、小型のオスは小型」と固定されているわけではありません。 同じオスであっても、その場の競争状況や雌との位置関係に応じて、用いる精莢の形や大きさ、交接様式を切り替えることがあります。 実際に、大型のオスが小型の精莢をメスに渡す例も確認されています。 精莢のタイプや交接姿勢は、「大型雄」「小型雄」といった固定された役割に対応するものではなく、その瞬間に最も子孫を残せる可能性が高い組み合わせが選ばれていると考えられています(*2)。

アオリイカの交接行動は、雌の精子貯蔵という仕組みを前提に、雄が精莢のタイプや交接様式を柔軟に使い分けて、自らの遺伝子を次世代へ残そうとする、戦略的な交接といえます。
本映像の交接は、オスがメスの下に回り込む雄平行型交接で、左第4腕をメスの外套腔内部に挿入しています。

 

【食べると危険な精莢】
イカの精莢(せいきょう)は、繁殖のために高度に特化した生殖器官で、白色で細長く、非常に硬い構造をしています。
精莢は、交接時に確実に機能するよう、圧力や温度などの刺激を受けると反応し、中身が反転して突出する仕組みを備えており、その際、付着した対象に刺さるように固定されます。 このため、イカを生食する際に、体内に残っていた精莢も一緒に食べてしまうと、噛む動作や体温、唾液などの刺激によって精莢が反応し、口腔内や咽頭、食道、まれに胃の内側に刺さることがあります。 このような現象は、医学的には「イカ精莢刺入症」と呼ばれており、生のイカに精莢が残っていた場合、イカの種類を問わず起こり得る現象であることが分かっています。

日本でのアオリイカの精莢を生食したことによる症例報告は確認されませんでしたが、報告されている症例の多くでは、イカ類を生食中に突然の鋭い痛みに襲われ、その後も鈍痛が続いたため受診しています。 これらの症例では、外科的な処置によって精莢が取り除かれています。
スルメイカの精莢が舌に刺さった症例では、自ら手で引き抜いたものの痛みは治まらず、医療機関において残った先端部分を外科的に取り出す処置が行われた例があります(*3)。

メスの口部周辺に付着している精莢は、硬さが残っていても、すでに反応して精子を放出した後である場合がほとんどであり、生食しても問題はありません。 しかし、未反応の精莢が混在している可能性も否定できないため、安全の観点からは、精莢はすべて除去することが必要です。

参考動画:交接後に行われるアオリイカの産卵

アオリイカの産卵・水中映像
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食・利用

ねっとりとして甘みのある食感は、刺身や寿司などの生食をはじめ、天ぷら、塩焼き、煮付けなど幅広く親しまれています。
漁獲量は多くなく、比較的高級なイカとして取り扱われます。
生での透明感や食感、甘味などを重視するため、漁獲された地で消費されることが多く、冷凍や干物などの加工品になることは少ない傾向があります。
堤防や磯のすぐ近くに生息し、日中でも疑似餌に反応することなどから、日本伝統の「餌木」を改良したルアーでの「エギング」が人気です。

毒・危険性

アオリイカに毒性はありません。 アオリイカに限らず、生食時にイカ類の精莢を食べると「イカ精莢刺入症」を引き起こす可能性があります。生食時には精莢の除去が必要です。

参考動画:激しい求愛をするボウズコウイカのオス

ボウズコウイカの求愛・水中映像
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参考資料

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