フクロノリ

転がって生きる海藻

Colpomenia sinuosa

Blogger 撮影コラム:「謎の成分・フクロノリ」

概要

和名:フクロノリ

英名:oyster thief

学名:Colpomenia sinuosa (Mertens ex Roth) Derbes & Solier in Castagne, 1851

撮影地:静岡県沼津市

提供映像(サンプル映像は1280x720.30pです)

分類・分布

オクロ植物門 > 褐藻綱 > シオミドロ目 > カヤモノリ科 > フクロノリ属 > フクロノリ

日本各地の沿岸。

特徴・雑学

【転がる海藻】
フクロノリは、袋のようにふくらむ独特の形が目立つ海藻です。 表面はゴワゴワして硬めでありながら薄く、指で押すだけで簡単に裂けます(*1)。 岩などに付着して育ちますが、付着器は大きく発達するタイプではなく、波や何かの衝撃でいったんはがれると、海底を転がるように移動することになります。
ふつう海藻は、基質から離れると不利になりがちですが、フクロノリの場合は、転がってもすぐに弱ることはありません。 逆に、移動することができたり、表面の付着物を落とすことにもなり、また、藻体全体に日光が当たるようになるなど、袋のような形が“有利”になることがあります。
ただし、破れてバラバラしまったり、砂などに埋没するリスクもあります。

 

【一つではない繁殖戦略】
春の早い時期のフクロノリの海底では、胞子体と配偶体が同時に存在しているという点が重要です。 一見すると同じように見えるフクロノリの群落の中には、すでに異なる役割を持つ個体が混ざっています。

[nと2n]
2n:染色体がそろった状態
n:染色体が半分の状態


--- 胞子体の行動 ---
胞子体は、環境条件が許す限り、自分と同じ性質をもつクローンの胞子体(2n)を次々と生み出します。 海底が一面のフクロノリで覆われていくような状態は、良い条件が続いていることを示しています。
また胞子体は、将来配偶体となるnの中性遊走子も放出します。 このnは、すぐに大きく成長することはなく、配偶体の予備軍として、糸状体という目に見えない姿のまま海底で待機に入ります。
クローンの胞子体を作り出す2nの中性遊走子も、春を過ぎて条件が整わなくなると、胞子体とならずに糸状体として海底で待機に入ります。

--- 配偶体の行動 ---
一方、配偶体は、雄配偶子と雌配偶子を放出し、受精を行うという役割を担います。 受精によって生じた接合子は、すぐに大きな胞子体になるのではなく、糸状体のまま海底で待機し、翌春、条件が整うと胞子体として成長します。 他の個体と受精し、遺伝的に新しい組み合わせをもつ胞子体を生み出すことは、フクロノリにとって最も理想的な増え方だと言えます。
また配偶体は、受精に使われない n の中性遊走子も放出します。 このnは、すぐに成長せず、配偶体の予備軍として、糸状体の状態で海底で待機に入ります。

このように、春に目に見えるフクロノリの胞子体と配偶体は、それぞれ n と 2n の遊走細胞を生み出し、異なる将来をもつ次世代を同時に準備しています。 こうした複数の繁殖・待機ルートを並行して持つことで、フクロノリは環境の変化にも柔軟に対応できる生活史を成立させているのです。

食・利用

【紅藻から抽出されるフノラン】
フクロノリは、一般的な食用海藻としての利用はありませんが、抽出物が機能性素材として扱われることがあります。
とくに「フクロノリ抽出物(フノラン)」と表記され、歯や口腔ケアに関わる素材として紹介される例があります。 しかし、フノラン(funoran)は本来、紅藻フノリ属由来の硫酸化多糖を指す名称であり、褐藻であるフクロノリ由来の抽出物ではありません。

なぜフノランがフクロノリ抽出物と表示されるのかは、日本で食品添加物として表示する際のルールを定めた厚生労働省の「既存添加物名簿」に理由があります。 この名簿では、過去に流通実績のあった名称がそのまま登録されており、フノランについても「品名:フクロノリ抽出物/別名:フノラン」という形で整理されています。 これは単純な誤記ではなく、当時用いられていた原料名や流通名を踏襲するという制度的な整理によるものです。
そのため、メーカーが食品表示を行う際には、学術的な原料分類とは別に、法的整合性を優先して名簿に記載された名称を用いる必要があり、「フクロノリ抽出物」と表記せざるを得ない事情があります。
さらに、褐藻類のフクロノリと紅藻類のフクロフノリは名称が非常に似ているため、読み間違いや混同が生じやすい点も背景の一つと考えられます。

 

【褐藻から抽出されるフコダイン】
褐藻由来の硫酸化多糖としては、一般にフコイダン(fucoidan)がよく知られています。 フコイダンは免疫応答への作用や抗炎症、抗腫瘍に関わる可能性などが研究されている成分で、健康食品や研究素材として利用が進んでいます。 ただし、効果の現れ方は原料種や抽出法によって大きく変わり、医薬品として確立したものではありません。

フコダイン(fucoidan)は、ラテン語で海藻(特に褐藻類)を表す「Fucus」から命名されたもので、フクロノリの名前とは関係ありません。

毒・危険性

フクロノリに毒性はありません。

フコダインが多いとされるワカメ

波に揺れるワカメの水中映像
▶ YouTube版映像を見る ▶ 詳細・サンプル映像を見る

フコダインは少なめだが、鉄分などのミネラルが多いヒジキ

天然ヒジキの水中映像
▶ YouTube版映像を見る ▶ 詳細・サンプル映像を見る

フクロノリと同様の環境で育つシラモ

シラモ水中映像
▶ YouTube版映像を見る ▶ 詳細・サンプル映像を見る

参考資料

トップページへ戻る
お問い合わせはこちら