ヒラタブンブク

棘皮動物界最速のランナー

Lovenia elongata

Blogger 撮影コラム:「砂地のランナー・ヒラタブンブク」

概要

和名:ヒラタブンブク

英名:—

学名:Lovenia elongata (Gray, 1845)

撮影地:静岡県伊東市

提供映像(サンプル映像は1280x720.30pです)

分類・分布

棘皮動物門 > ウニ綱 > ブンブク目 > ヒラタブンブク科 > ヒラタブンブク属 > ヒラタブンブク

東京湾以南、インド洋、紅海、アフリカ東岸、オーストラリア東岸。潮間帯から水深90m。

特徴・雑学

ヒラタブンブクは、砂底に潜って暮らす「ブンブク」と呼ばれるウニの仲間です。
一般的な丸いウニは正形ウニ類と呼ばれ、体に特定の前後左右はありません。 これに対し、ブンブクの仲間は不正形ウニ類に分類され、卵のような形をした体には、はっきりとした前後の区別があります。

 

【限りあるエネルギーの使い道】
ブンブクの場合、成長して殻が大きくなるものの、厚さは全体の大きさに対して薄くなっていきます。 これは、殻を過度に厚くしないことで成長速度を早め、殻の形成に使うエネルギーを抑えることで、その分を生殖腺の発達に回しているためと考えられています(*1)。

 

【潜って暮らす戦略】
ブンブクの仲間は、巻貝などの捕食者から身を守るため、砂の中に潜る能力を発達させてきました。
体表を覆う細かな棘は、部位ごとに役割が分かれており、それぞれが複雑に動くことで、音や振動を立てずに、静かに砂の中へと潜り込みます。 ウニ類の中でも特に深く潜ることで知られ、種類によっては20センチほど砂中に潜るとされています。
深く潜るブンブクでは、呼吸が妨げられないよう、スノーケルのような呼吸器官を体の上方へ伸ばすしくみも見られます。

 

参考動画:砂に深く潜るタイプのブンブク

【走って逃げる戦略】
ヒラタブンブクも普段は砂に潜って身を隠しますが、他のブンブクほど深く潜ることはありません。
捕食者が近づくと、砂の中から素早く飛び出し、高速で移動して逃げるという戦略を選んでいます。
そのため、深く潜るための棘や、呼吸用のスノーケル状の器官は発達せず、代わりに砂の表面を素早く移動するための体形や、筋肉と棘のしくみが発達しています。

ヒラタブンブクの腹面は平坦になっており、移動の際に砂の抵抗を受けにくい形をしています。
構造の変更は最小限にされており、本来は砂に潜るために使われる両脇の棘を太く長く発達させ、これを歩行に用いることで、腹の中央にある前進用の小さな棘を使う場合よりも、はるかに速く移動することを可能にしています。
深く潜ることは得意でないものの、砂の中から出たり、再び潜ったりする動作も、非常に素早く行えるようになっています。
また、両脇の歩行用の棘を動かす筋肉も大きく、力強く発達していますが、移動の妨げにならないよう、体表に飛び出すことなく、体の内側に組み込まれる形で配置されています。

背面にも長くて鋭い棘が備わっており、立てたり収納したりと稼働することができます。 防御のためでもあり、砂地でひっくり返った際には、効率よく起き上がるためのものでもあるようです。
何もないように見える砂地に手を入れると、この棘に刺さって痛い思いをすることがあるので注意が必要です。

 

【維持される逃避能力】
ブンブクの仲間は、白亜紀(約1億4,500万〜6,600万年前)の初期に誕生したと考えられています。
その後、ヒラタブンブク類は、新生代・古第三紀の始新世(約5,600万〜3,390万年前)に分岐・成立したと推測されています。
当時の主な捕食者は、トウカムリ類をはじめとする肉食性の巻貝でしたが、この時代のヒラタブンブク類は体長3センチほどと小型であり、 それに対してトウカムリ類も4センチ前後と小さかったため、素早く逃げるという戦略は有効であったと考えられます。

一方、化石記録によると、新生代・中新世(約2,300万〜500万年前)になると、ヒラタブンブク類は体長10センチほどまで大型化するのに対し、トウカムリ類は30センチにも達する大型種が出現します。
この頃になると、トウカムリ類が多く生息する海域から、ヒラタブンブク類の化石記録が見られなくなります。
また、現代における実験や観察からも、トウカムリ類の捕食を回避できるのは、主に大型のヒラタブンブク個体であることが確認されています(*1)。

これらのことから、ヒラタブンブク類が進化させた「素早く逃げる」という戦略は、捕食者との関係の中で一定の効果を発揮してきたものの、 捕食者がさらに大型化した環境では、必ずしも万能な防御手段ではなかったと考えられます。
現在では、トウカムリ類が多く生息する海域とヒラタブンブクの生息域はほとんど重なっていませんが、かつての捕食圧のもとで獲得された高速移動の能力は、進化の名残として、今もなお維持されています。

 

【海底を自在に移動する】
ブンブクは、細かな棘を器用に動かして砂へ潜り、周囲の状況に応じて体勢を立て直しながら移動します。 棘は一本一本が独立してわずかに角度を変え、全体として協調的に働くことで、砂の中でも表面でも姿勢を保つことができます。 この「どの向きからでも移動できる」という発想は、月面や火星などの不整地を走行するローバー(探査機)や、水中ロボットの設計思想と通じるものがあります。
実際に、ウニの棘の動きをヒントにしたロボットでは、複数の棘や管足に似た構造を個別に制御することで、転倒を気にせず移動したり、複雑な地形に適応したりする研究が進められています(*2)。 生物模倣(バイオミメティクス)の観点から見ても、ブンブクやウニ類の移動様式は、従来の「車輪」や「脚」とは異なる発想を与えてくれる、非常に興味深い例といえるでしょう。

 

ウニの動きをヒントにしたハーバード大学のウニロボット

【不思議な名前の由来】
ヒラタブンブクを含む不正形ウニであるブンブク目に、「ブンブク」という名がなぜ付けられたのかはわかっていません。 標準和名が「ブンブクチャガマ」という種類もおり、日本の昔話である「分福茶釜」と関係があるとされています(*3)。

タヌキが茶釜に化けて寺に置かれていましたが、ある日、お湯を沸かそうとした和尚に正体を見破られてしまいます。 そのため茶釜は寺から追い出され、貧しい古道具屋に売られることになりました。

古道具屋のもとで、茶釜のタヌキは綱渡りなどの芸を披露するようになり、その姿は見世物として大きな評判を呼びます。 興行によって暮らしが立ちゆくようになった古道具屋は、次第に裕福になっていきました。

やがて古道具屋は、稼いだお金でタヌキに恩返しをし、茶釜を元の寺へと返します。 茶釜のタヌキは寺に戻り、その後は静かに暮らしたと伝えられています。

この物語は、「福を分ければ幸せになれる」という教えを伝えるものとして知られています。

 

1811年(文化8年)に、昆虫や甲殻類などさまざまな動物を描いた博物図譜『千虫譜』には、「ブンブクチャガマ」という記載とともに、 放射相称をもつ正形ウニ類であるガンガゼに似たウニの図が収められているとされています。 「ブンブク」という名称が、いつから現在の不正系ウニ類を指す名前として用いられるようになったのかは定かではありません。 しかし、姿や正体が分かりにくく、独特で目を引く動きを見せる点や、妖怪や不思議な存在を連想させることから、この名が結び付けられた可能性も考えられます。

 

アニメ日本の昔話 ぶんぶく茶釜

食・利用

ヒラタブンブクを食用にする資料はありません。

毒・危険性

毒性の資料は見つかりません。 ヒラタブンブクには長く鋭い棘があります。不用意に砂地を手で掘るような動作をすると刺される場合があります。

参考資料

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