概要
イイジマフクロウニ:Asthenosoma ijimai (Yoshiwara, 1897)
撮影地:静岡県伊東市 水深20m
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 長さ:2分4秒
- サイズ:588MB
- (SAMPLE動画は1280☓720です)
分類・分布
棘皮動物門 > ウニ綱 > フクロウニ目 > フクロウニ科 > イイジマフクロウニ属 > イイジマフクロウニ
相模湾~九州
特徴・雑学
イイジマフクロウニは、直径20cmを超える大型のフクロウニで、全身が袋状の柔らかな殻(Test)と短い棘に包まれています。
殻は通常のウニのような硬い球殻ではなく、薄い骨片がコラーゲン性の結合組織でつながった「フクロ(袋)」のような構造で、そのため和名もフクロウニと呼ばれます。
棘は赤〜橙〜紫色と非常に派手で、平常時はメロンパンのような放射状の模様ですが、刺激を受けると棘が一斉に立ち上がり、全体が針の山ような姿になります。
フクロウニの仲間には水深数千メートルに棲むものもいます。生体を直接みることのできないウニですが、
イイジマフクロウニは水深20m程度にも生息するため、例外的にダイビングで観察できるフクロウニです。
【祖先的なウニ】
フクロウニ類(フクロウニ目 Echinothurioida)は、ウニ類の中でも原始的なグループのひとつです。
現在の硬い殻を持つウニが登場する以前の、柔軟な骨格構造を保っており、体全体が袋のようにたわむ独特の形態をしています。
この柔らかい殻(Test)は、骨片同士がコラーゲン性の組織でつながっており、ウニの進化史において「硬い殻の始まり」を今に伝える存在とされています(*1)。
柔らかい体は捕食者にとって格好の標的ですが、深海に生息していたフクロウニの仲間は、浅い海に棲むタコや顎の強い肉食魚類などに襲われることはありませんでした。
さらに、強い毒棘を持っていることもあり、ジュラ紀から今日まで生き残っていると考えられます。
【脱糞のようす】
ウニの肛門は、体のいちばん上の中央にあります。
これは、ウニが「完全な五放射相称」という、体を5つの方向に均等に分けた構造をもつ生き物であるためです。
五放射の中心軸は、下側にある口と上側にある肛門を一直線につなぐ形で貫かれています。
下側面で岩に張りつき、下向きの口で餌を削り取り、食べたものを体内を通して頂点の肛門から排出します。
今回の映像のように、ウニがてっぺんからふわっと排出物を吐き出すのは、五放射相称の体のつくりが生み出す、ウニ特有の排泄様式といえます。
食・利用
食用としての資料はありません。アクアリウムショップでの生体販売の例があります。
毒・危険性
イイジマフクロウニの棘は先端を覆う薄い袋に毒液が満たされた構造をしており、この袋が破れると触れただけでも毒が皮膚に入り込みます。
棘の内部は中空で、深く刺さった場合はさらに多くの毒液が先端から体内に送り込まれます(*2)。
毒はタンパク質系の強い毒で、刺されると激しい痛み、腫れ、しびれなどの症状が出る危険があります。
深場に棲むため遭遇する機会は少ないものの、メロンパンのような面白い形やゼブラガニが棲むなど、ダイバーが手を触れそうになる機会の多いウニで、事故例もあります。
観察時に「絶対に触れない」ことが重要です。
参考動画:腺嚢叉棘の毒を持つラッパウニ
参考資料
- JAMSTEC BISMaL(分類情報)
▶ 見る - *1)The phylogeny and classification of post-Palaeozoic echinoids.
(古生代後のウニ類の系統解析と分類学的再検討)
Andrew B. Smith & Andreas Kroh
Journal of Systematic Palaeontology, Vol. 8, Issue 2, pp. 147-212(2010) ▶ 見る - *2)Prickly Defenders: A Review of Venomous Sea Urchins (Echinoidea)
(トゲだらけの防衛者:毒性ウニ類に関する総説)
Marine Drugs, 2025 Jun 13; 23(6): ? doi:10.3390/md23060253
▶ 見る