ネズミフグ

つぶらな瞳のアバサー

Diodon hystrix

Blogger 撮影コラム:「つぶらな瞳のアバサー・ネズミフグ」

概要

和名:ネズミフグ

英名:Spotted porcupinefish

学名:Diodon hystrix Linnaeus, 1758

撮影地:静岡県伊東市

提供映像(サンプル映像は1280x720/30pです)

分類・分布

脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > フグ目 > ハリセンボン科 > ハリセンボン属 > ネズミフグ

北海道を除く日本各地の沿岸。

特徴・雑学

食性は肉食で、鳥のくちばしのようになった硬い歯と、万力のように強い顎で、ウニや貝、ヤドカリなどを噛み砕いて食べます(*1)。
日中は岩陰や隙間に潜むことが多く、夕方〜夜にかけて行動が活発になる傾向があります。

 

【大型になるハリセンボンの仲間】
ハリセンボンの仲間ですが、ネズミフグはより大型になりやすく、通常で40センチ前後、最大で90センチという記録があります(*1)。
体の棘は鱗が変化したもので、普段は体に沿って伏せていて目立ちにくいのが特徴です。

 

【膨らむ体と起き上がる棘】
ネズミフグの皮膚は、非常に高い伸縮性をもつ特殊な構造をしています。 危険を感じると口から海水を飲み込み、胃を大きく膨らませることで体全体が膨張すると、皮膚は通常の状態からおよそ40%、体積は約3倍にまで増加します。 体が膨らむことを優先するために肋骨は無く、胃は消化器官としての機能としてよりも、膨らむための器官として機能しています(*2)。

皮膚の真皮には波状に並んだコラーゲン繊維が存在しており、膨張の初期段階では比較的弱い力で柔軟に伸びます。 膨張が限界に近づくにつれてコラーゲン繊維が引き伸ばされ、皮膚は急激に硬くなっていきます。 この性質により、膨らんだ体表は単なる柔らかい袋ではなく、剛性のある防御のための構造として機能します(*3)。

体表の棘は、鱗が棘状に変化したもので、内部の骨格とは直接つながっていません。 棘の根元は皮膚の中に埋め込まれており、皮膚が膨らんで張ることで自然に起き上がる構造になっています。そのため、体が膨張すると自動的に棘が立ち上がり、防御力が高まります。 その後、胃に取り込んだ海水を排出して体が元の大きさに戻ると、皮膚は再び縮み、棘も自然に寝た状態へと戻ります(*2)。

 

膨らむと棘が立ち上がる"代表格"のハリセンボン

【和名の由来】
ネズミフグという和名の由来については、命名者や命名理由を直接示す資料は残っていないようです。
各地の地方名を見ても、「ネズミフグ」あるいは「ネズミ」を用いた名称は確認されておらず、古い漁師言葉や地方名に由来する可能性は高くないと考えられます。 一般的には、学名 Diodon hystrix の種小名 hystrix がラテン語でヤマアラシを意味することから、「ヤマアラシ → ハリネズミ → ネズミ」と連想されたという説や、 やや突き出た口元などから、顔つきがネズミのように見えるため名付けられた、という説明がよく知られています。
現代では嫌われがちなネズミも、干支の最初の「子」であり、大黒天の使いとして縁起の良い動物とされてきました。 繁栄や五穀豊穣の象徴として語られることもあり、「ネズミ」という言葉が必ずしも悪い意味だけを持つわけではないようです。

ネズミフグという名称が文献上で確認されるのは、1930年以後とされています。 これは、ディズニーの短編アニメーション「蒸気船ウィリー」が日本で初めて上映された1929年以降であり、ミッキーマウスという“ネズミのキャラクター”が知られ始めた時期と、ほぼ重なります。
当時のミッキーマウスは、現在のような「子供向けキャラクター」という位置づけではなく、音と動きが完全に同期する新しい映像表現として、大人の観客に強い印象を与える存在でした。 アメリカからやってきたネズミというモチーフ自体が最新であり、アニメーションを超えた印象的なものとして受け取られていた可能性もあります。
そう考えて改めてネズミフグを正面から見てみると、体に対して大きな丸い目はどこか愛嬌があり、左右に張り出した大きな胸鰭は耳のようにも見えてきますが、想像の域は出ません。

食・利用

沖縄・鹿児島県奄美地域では、ハリセンボンと同様にアバサー・アバス・イノーアバサーなどと呼ばれ、伝統的な「アバサー汁」は、とても一般的な食材です。 アバサーと呼ばれるフグは複数種あり、ネズミフグの他、ハリセンボン・ヒトヅラハリセンボン・ネズミフグ、イシガキフグなどがありますが、 可食部位である筋肉・皮・精巣の他、有毒部位である肝臓(肝)・卵巣も無毒であるというのが一般的な認識になっています。

八丈島でもご当地食材となるハリセンボン科のイシガキフグ

毒・危険性

1995年と1996年の沖縄県衛生環境研究所の調査報告では、ネズミフグ・ハリセンボン・ヒトヅラハリセンボン・イシガキフグの肝臓と卵巣からはテトロドトキシンは全く検出されなかったことと、 長年食用とされてきたにもかかわらず、中毒事例が無いことから「ほぼ無毒であろう」としています(*4A*4B)。
また、肝臓組織を用いた実験では、フグ科ではテトロドトキシンが肝臓に取り込まれる一方、ハリセンボン科・ハコフグ科では取り込みが認められず、毒の蓄積に関わる仕組みに差があることが示されています。
ただし、「ネズミフグがなぜ無毒なのか」という生理学的・進化的な仕組みを直接解明したものではありません。

厚生労働省による通知「フグの衛生確保について」では、フグ中毒事故を防止する目的から、食用にできるフグの種類および部位が厳密に定められています(*6)。 この通知は、個々の魚種の毒性の有無ではなく、誤認や判断ミスによる中毒事故を防ぐための行政的リスク管理として運用されています。
そのためハリセンボンについてもフグ目魚類として一括して扱われ、筋肉・皮・精巣のみが可食部位とされ、肝臓および卵巣は、フグの種類にかかわらず一律に食用禁止とされています。 これらの部位を販売または「提供」した場合、食品衛生法により3年以下の懲役または300万円以下(法人の場合は1億円以下)の罰金が科されます(*7)。
なお、個人が自己責任において肝臓や卵巣を含む料理を「自分で」食べること自体は法律で直接禁止されていませんが、無償であっても家族や友人に「提供」した場合は食品衛生法違反となります。

貝も噛み砕く力のあるくちばし状の歯は、指を咬まれると欠損する場合があります。
釣り上げて死んでいると思われる場合でも反射で噛む場合があるので、魚の口に指を入れないようにしましょう。

パフトキシン、パリトキシン様毒を蓄積するウミスズメ

参考資料

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