モモイロサルパ|海中の炭素循環

Pegea confoederata

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概要

撮影地: 静岡県伊東市 水深0〜5メートル

分類・分布

脊索動物門 > タリア網 > サルパ目 > サルパ科 > モモイロサルパ属 > モモイロサルパ

世界の温帯から熱帯の表層海域に分布。日本沿岸でも春から夏にかけて見られる。

特徴・雑学

モモイロサルパを含むサルパ類は、クラゲのように見える透明な筒状の体を持つ浮遊性の動物で、脊索動物に分類されるホヤの仲間です。
サルパは、体内に海水を取り込んで濾過し、プランクトンを食べています。また、取り込んだ海水を勢いよく吐き出すことで推進力を得ています。 やや硬いゼラチン状の体は、触るとシリコンゴムのような感触です。

【炭素の凝縮】
サルパは、体内に取り込んだ海水から植物プランクトンをこし取って栄養にします。
食べたあとは、それを消化して非常に密度の高い糞(ふん)として排出します。
この糞は重く、海の中を急速に沈みながら、1000メートル以上の深海にまで到達することが観察されています。

植物プランクトンは光合成によって、海水中に溶けている二酸化炭素(CO₂)を吸収しています。
つまり、サルパが植物プランクトンを食べて糞として海底に沈めることで、海水中のCO₂(炭素)が減ることになります。
すると、海面を通じた大気との「ガス交換」によって、大気中のCO₂が海に取り込まれやすくなり、結果として空気中の二酸化炭素も減ると考えられています。

このように、サルパによる「炭素の沈降」は、地球規模の炭素循環を支える“生物ポンプ(biological pump)”の一部です。 糞が深海に到達すれば、炭素は数百年から数千年ものあいだ海底にとどまり、温暖化ガスとして大気に戻ることはありません。
サルパは、大気中の炭素を深い海の中へと封じ込め、地球の気候を安定させる役割を担っているとされています。

【サルパの生活環】
サルパは、「有性生殖世代(ブラストゾイド:blastozooid)」と「無性生殖世代(オーゾイド:oozooid)」を交互に繰り返す、世代交代型の生活環を持っています。
有性生殖世代では、複数の個体が「ベルト」のようにつながって連なっており、「連鎖個虫」と呼ばれます。
これらの個体は、無性生殖世代によってつくられたクローンで、それぞれが特殊な器官で接続され、互いに意思疎通を行うことができます。

連鎖個虫は先雄性の雌雄同体で、最初はオスとして精子を放出し、その後メスとなって卵を持ちます。
放出された精子は、すでにメス期にある別の連鎖個虫の体内に入り、卵を受精させて「胚」を形成します。
この胚が成長し、無性生殖世代である「オーゾイド」となって放出されます。

無性生殖世代(オーゾイド)は連鎖せず、単独で生活するため「単独個虫」と呼ばれます。
単独個虫の体内には「出芽帯(ストロン:stolon)」があり、ここでクローンが次々と作られます。
クローンはベルトの様に繋がった連鎖個虫(ブラストゾイド)となって出産され、再び有性生殖を行います。

このように、無性により連鎖群体を生み、有性により個体を生むという二形世代を交互に繰り返すサルパの生活史は、動物として非常に特異です。
しかも、オーゾイドが出産するブラストゾイドは全てクローンであり、同一遺伝子を持ちながらも役割や形態を変えて世代交代を実現します。

サルパの生活環


参考動画:死んだサルパを巻貝が食べる


参考動画:オオサルパ(単独個虫

食・利用

食用としては利用されておらず、市場にも出回りません。
研究対象や教育用教材としての価値があります。

毒・危険性

毒はなく、人間に対する危険性もありません。素手で触れても問題ない生物です。

参考資料

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