ウミシダ目|歩くウミシダ

Crinoidea

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概要

ウミシダ目・Crinoidea

撮影地: 静岡県沼津市 水深12m

分類・分布

棘皮動物門 > ウミユリ綱(Crinoidea) > ウミシダ目(Comatulida)

熱帯〜温帯の沿岸から外洋・礁・岩礁域・砂底。波打ち際から深海まで棲息します。

特徴・雑学

ウミシダ(Comatulida)は「ウミユリ」の系統群から約2億年前に分かれました。 海底に固着生活であったウミユリから、「移動する」という新しい生活様式を得たのです。*1
海底では「腕」と呼ばれる器官を使って歩く様に移動したり、腕を同調させて羽ばたくように泳ぐこともできます。 海底の移動では、進行方向側の腕がS字にしなりながら海底を「引き寄せる」動作を行い、後方の腕が海底を「押し出す」動作を行うといった順番のある運動が観察されます。

【前後左右はない】
ウミシダはウニと同様の「放射相称」で、その体に明瞭な前後や左右はありません。 移動時には進みたい方向に応じて“その都度の前”が決まり、腕(脚状に用いる部位)の運びを臨機応変に切り替えます。*2

【光を感じる】
目はありませんが、腕や羽枝(Pinnule/ピニュール)の表層に光を感じる細胞があり、明暗に反応して腕の展開や姿勢を変えます。 オプシン遺伝子の発現や光刺激への行動反応が報告されています。*3

【摂餌】
ウミシダの摂餌は、腕の両側に並ぶ細かな羽枝を使った濾過摂食です。 各羽枝の間には粘液と繊毛流が形成され、海中を浮遊する微細なプランクトンや有機粒子を捉えます。

捕らえられた粒子は、羽枝の表面にある繊毛の動きによって腕へと運ばれ、腕の内側にある食物溝(ambulacral groove)を通って、 まるでベルトコンベアーに乗せられるように中心の萼(calyx/カリクス)に運ばれ、さらに中央にある口へと送られます。
以前は、海底で落ちてくる餌を受け止めるだけの生物と考えられていました。 近年の研究では、摂餌の為の腕の動きは極めて繊細で、流速や光量などに応じて羽枝の開き方や腕の角度を調整し、良い環境へも移動することが知られています。*4
この摂餌法は、固着生活であったウミユリ時代から基本的に変わらず、2億年以上にわたり維持されてきた極めて安定した生活様式です。

【生き残り戦術】
岩の隙間に隠れる・夜に活動する・必要に応じて歩行や遊泳で移動する といった行動に加え、体表には化学的防御(忌避物質)を装備し、再生能力も備えるなど、複数の適応が重なって捕食圧に対処してきたと考えられます。


参考資料:ウミシダの構造
ウミシダの構造

参考動画:羽ばたいて移動するウミシダ
▶ 泳ぐウミシダの詳細ページを見る

食・利用

一般的な食用対象ではありません。

毒・危険性

棘や毒は知られていませんが、触れると手指が黄色く染まることがあります。 これは体表の脂溶性色素(カロテノイド類やキノン様色素)や、粘液に含まれる"忌避物質"が指先に移着するためです。 これらの物質は魚類にとって不快味・苦味などとして働き、ウミシダの身を守る効果があります。 一方、一部のエビには誘引物質として働き、引き寄せる効果があります。 ウミシダの中にコシオリエビの仲間が棲みつくのは、誘引物質として働いた効果があると考えられています。 魚類にとっての忌避物質に棲みつくことでエビは身を守ることができますが、ウミシダにとっては利点は無いとされ、片利共生とされています。*5

手に付いた黄色は、乾くと酸化して黄~茶色が濃くなる場合がありますが、人間への健康被害は確認されていません。
皮膚刺激は通常軽微で、石けんで洗えば落ちますが、目を擦ったり舐めたりすのは避けた方がよいでしょう。

参考資料

  • JAMSTEC BISMaL(分類情報)
    ▶ 見る
  • *1 Origin and radiation of the comatulids (Crinoidea) in the Jurassic
    (ジュラ紀におけるウミシダ類(Crinoidea)の起源と放散)
    Hans Hess
    Swiss Journal of Palaeontology 133: 23-34 (2014)
    ▶ 読む
  • *2 ウミシダを知る
    小渕正美
    財団法人黒潮研究財団 CURRENT Vol.13 No.3 (2012)
    ▶ 読む
  • *3 Opsin-based photoreception in Crinoids
    (ウミユリ類が示すオプシンによる光の感知)
    Youri Nonclercq, Marjorie Lienard, Alexia Lourtie, Emilie Duthoo, Lise Vanespen, Igor Eeckhaut, Patrick Flammang, Jérôme Delroisse
    Preprint on bioRxiv (2024)
    ▶ 読む
  • *4 Charles Messing’s Crinoid Pages: Feeding Mechanisms
    (チャールズ・メッシングのウミユリ類ページ:摂餌のしくみ)
    Dr. Charles G. Messing
    Nova Southeastern University LibGuides
    ▶ 読む
  • *5 Comatulids (Crinoidea, Comatulida) chemically defend against coral fish by themselves, without assistance from their symbionts
    (ウミシダ類(Comatulida)は共生生物の助けを借りずに自ら化学的防御を行う)
    A.O. Kasumyan, V.V. D’yakonov, M.V. Makarov, T.V. Tinkova
    Scientific Reports 10:63140(2020年)
    ▶ 読む
  • A Monograph of the Existing Crinoids (1915)
    「現生ウミユリ類(棘皮動物綱/クルノイド綱)既存種モノグラフ」または「現生ウミユリ類の包括的モノグラフ」
    Austin Hobart Clark
    ▶ 読む